イベルメクチンについて
はじめに:イベルメクチンへの関心が再燃
近頃、当クリニックにも「イベルメクチンを使えますか?」というお問い合わせが非常に増えています。
コロナ禍の中で一度大きく注目を浴びたこの薬は、いまだに「後遺症に効く」「がんにも良い影響がある」といった話題が尽きません。
今日は、一医師としての私見として、イベルメクチンという薬について整理してみたいと思います。
イベルメクチンとは:寄生虫治療薬としての出発
イベルメクチンは、もともと寄生虫の薬として開発されたものです。
放線菌が作り出す化合物をもとに、北里大学の大村智先生がアメリカ・メルク社と共同開発し、1987年に実用化されました。
その功績により、大村先生は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞されています。
この薬は、アフリカ諸国でのフィラリア症やオンコセルカ症(河川盲目症)などに対して劇的な効果を示し、
すでに40年以上、安全に使用されている薬でもあります。
特徴:副作用の少なさと安全性
イベルメクチンの最大の特徴は、その副作用の少なさにあります。
子どもから高齢者まで幅広く使える薬であり、これまで大きな有害事象の報告はほとんどありません。
日本では2002年に腸管糞線虫症、2006年には疥癬の内服治療薬として保険適用されています。
コロナ後遺症との関係
コロナ禍の中でイベルメクチンが再び注目されたのは、後遺症への効果が取り沙汰されたことがきっかけです。
国際的な研究では「有意な効果は確認されなかった」とする報告が多い一方で、
実際の臨床現場では「体調が良くなった」「顔色が明るくなった」「認知症の症状が軽くなった」「アレルギーが減った」といった声もあります。
こうした体感的な改善を語る医師や患者も少なくありません。
がん治療との関連性
一部の研究では、イベルメクチンががん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導(細胞死の促進)に関与している可能性が示唆されています。
ただし、効果を得るためには高用量が必要だという報告もあり、
通常の寄生虫治療量(1錠3mg)では効果が乏しいとされています。
たとえば、再発予防では体重1kgあたり1mg、がん治療では2mg/kg前後が用いられることもあるとされます。
つまり、体重60kgの人であれば120mg/日という高用量です。
ただし、こうした投与は日本の保険診療外であり、医師の管理のもとで慎重に行う必要があります。
服用の工夫:脂と一緒に摂ることが大切
イベルメクチンは脂溶性の薬です。
そのため、食後や脂分を含む食事と一緒に摂ることで、吸収率が3〜5倍に向上します。
「空腹時よりも食後に服用する」―このひと工夫で効果の出方が変わる可能性があります。
安全性と今後の展望
「がんに効く」「コロナ後遺症に良い」という話題には、今も賛否があります。
しかし、40年以上使われ続け、副作用が極めて少ないという事実は変わりません。
現時点では決定的なエビデンスがあるわけではありませんが、
可能性を探る価値のある薬として、今後の研究にも注目が集まっています。
医師としての考え
私自身の見解としては、
「既存の治療と併用しながら、医師の管理のもとで安全に試してみることは選択肢の一つ」と考えています。
ただし、個人輸入などで品質が保証されないものを使用するのは非常に危険です。
信頼できるルートで医師の監督のもと、状態を確認しながら服用することが大切です。
まとめ
イベルメクチンは、長年にわたり世界中で使われてきた安全性の高い薬です。
コロナ後遺症やがんへの応用についてはまだ研究段階にありますが、
副作用が少ないという特性からも、今後の医療応用が期待されます。
もしご興味のある方は、自己判断ではなく、必ず医師にご相談ください。
それが安心・安全に治療を進める第一歩です。
備考
イベルメクチンについては寄稿もしていますので、興味のある方はご一読ください。
(文責・古田一徳)
