2026.01.22

治すから寄り添うへ 〜がんになった医師が気づいたこと〜

『統合医療でがんに克つ』 2025.12 VOL.210にて、古田医師の手記が掲載されています。

ここにその全文を掲載させていただきます。

がん経験が私に「本当の医療の姿」を教えてくれました

医療法人ケーイー 理事長 古田 一徳

はじめに

 私は外科医師として長年にわたり、がんをはじめ多くの病と向き合ってきました。北里大学病院外科での勤務医時代も、その後に「ふるたクリニック」を開業してからも、治すこと、それが医療の目的であり、自分の使命だと信じて疑いませんでした。しかし2024年7月思いがけず私自身が「上咽頭がん ステージⅢ」と診断されたとき、その信念は大きく揺らぎました。

それまで自分なりにいろいろ検査はしていましたので、自分は大丈夫と思っていました。がんが発見される少し前の2024年3月に右頸部のリンパ節が1カ所だけ少しはれていたのですが気にとめていませんでした。

今回のこの病気、病名も正直、まったく頭に浮かんでいませんでした。医師としての知識があるほど治療の厳しさをあらかじめ理解できるので、がんと診断され告知されたときはショックでした。それでも実際に自分が患者として体験した放射線治療と抗がん剤治療の副作用は、想像をはるかに超えるものでした。

喉の痛みで水を飲むことすらつらく、唾液もでなくなり、味覚、嗅覚は失われ、体重は減り、体力もなくなり心身ともに消耗しました。「患者さんは、こんな苦しみの中で頑張っていたのか」と、これまでとはまったく違う視点で〝痛み〟の本当の意味を知りました。

■苦しみの中で見えた「支えられる医療」

上咽頭がんの治療では抗がん剤治療のために短期入院3回しました。放射線治療は平日連日で33回(66グレイ)を上咽頭周囲に照射しました。のど、首の皮膚、耳、鼻領域にあたる放射線の副作用である炎症、やけどが治療後にもおこり、痛みには本当につらい思いをしました。あまりのつらさに治療の途中、私はしばしば心が折れそうになりました。

そんなとき支えてくれたのは、家族やスタッフ、同僚医師、そして患者さんたちからの温かい言葉でした。「先生、大丈夫ですか、心配しています」「先生、早くよくなってください先生がいないと困ります」などなど――その言葉がどれほどの力をくれたか、言葉では言い尽くせません。

私は長い間、医師として〝支える側に立ってきました。しかしこの経験を通じて〝支えられる〟ということの尊さを初めて深く知りました。

医療とは決して一方通行ではなく、人と人との信頼の絆の上に成り立っている。「治す」だけでなく「寄り添う」ことの大切さを、身をもって学んだのです。

■2度目の危機 ― 敗血症性ショック

 上咽頭がんの治療後、副作用が大変でしでしたが、ようやく体調が落ち着き始めた2025年4月中旬でした私は突然、微熱と全身倦怠感に襲われ、半日の間に急激に意識を失いかけて、北里大学の救命急センターにお願いして早朝受診させていただきました。

救命救急のベッドにたおれこむようにやっと着き緊急の血液検査、CT検査からの診断は「敗血症性ショック」「敗血症性心筋炎」「急性心不全」でした。意識がもうろうとするなかで、その診断にいたことを覚えています。「命の瀬戸際にある大変な状況で、先生から『あと半日遅れたらもう助からなかったかも』と言われたほど重症でした。このときにまったく動けず喋れない心細い状況や臨死体験のようなものまで経験しました。

まさに命の瀬戸際でした。1週間のICUでの救命集中治療、その後2週間の入院を経て、スタッフ皆さんのおかげで、奇跡的に一命を取り留めることができました。皆様には心から感謝しています。

 ベッドの上で、天井を見上げながら思いました。「これほど多くの人に支えられて自分は生かされている」――。治療にあたった医療スタッフの懸命な姿、周りの皆さんの祈るような表情。それらすべてが〝いのちのつながり〟そのものでした。医師として多くの命を救ってきたつもりでしたが、このとき初めて「命を与えられる側」の感謝と祈りを知りました。

■統合医療との再会 ~生きる力を再び灯すプロセス

一命をとりとめて何とか退院しましたが、筋力のおとろえもあり、体重は77Kgから61Kgに減っていました。ICUのベッドに1週間じっと寝ていたので、はじめは体力のにより、まったく動けませんでした。その後、心臓リハビリを継続して、少しずつですが動けるようなっていきました。

しかし不思議なことに身体の回復とともに、「医療とは何か」「人を癒すとはどういうことか」をもう一度見つめ直す時間にもなりました。

私は以前から、クリニックでオゾン療法、高濃度ビタミンC点滴、NMN点滴、栄養療法、再生医療、さらにはCBDによるメンタルケアなど、統合医療を臨床に取り入れてきました。それらは西洋医学を否定するものではなく、「人が本来もつ自然治癒力を支える」ためのもう一つの柱です。

私は自らもオゾン療法やビタミンC点滴を継続しました。同時に腸内環境の改善や、食事、睡眠、瞑想、呼吸法など、〝生き方そのもの〟を整えることに意識を向けました。体が少しずつ元気を取り戻すと、不思議と心の中にも光が差し込んできました。統合医療は、単に「治療」ではなく「生きる力を再び灯すプロセス」なのだと気づきました。

■がんを経験して初めて分かった「寄り添う力」メンタルの重要さ

医療の現場では、どうしても〝結果〟が求められます。がんが小さくなったか」「腫瘍マーカーが下がったか」などです。けれども、患者さんの心の中にある「恐れ」や「孤独」には、数値では測れない深い痛みがあります。病に向き合う人にとって、医師や看護師、医療スタッフの一言、温かいまなざしは、薬にも勝る力〟になります。

「あなたは一人じゃない」――この言葉だけで、人はもう一度、生きる勇気を取り戻すことができる。今回の病気をしたことで、自分は身をもって感じました。

がんを経験して分かったのは、医療の本質は〝技術〟よりも〝共感〟だということでした。痛みを理解しようとする心、患者さんの人生に寄り添おうとする姿勢、そこにこそ「癒し」が生まれるのだと思います。

命の危機に瀕した大変な事態でしたが、今思えば、患者さんの気持ちが良く分かる非常に貴重な経験といえます。

■「治す医療」から「生きる医療」へ

 がんになって以来、私は「医師である前に人間である」ことを強く意識するようになりました。病気は、決して〝敵〟ではないのではないかとも思ったりします。それは、生き方や心の在り方を見直す〝きっかけ〟をくれる存在でもあるからです。

がんを経験した今、私は患者さんにこう伝えたいのです。「病気を恐れず、自分を信じてください。そして、あなたを支える医師、医療スタッフや家族、仲間を信じてください」と。

がんは確かに厳しい試練ですが、その中から人は新しい強さと優しさを見つけることができます。医師として、そして同じ患者として、私はこれからも〝寄り添う医療〟を実践していきたいとあらためて思いました。

■おわりに

私は、がんと敗血症という2度の生死の境を経験しました。それはもちろん決して望んだ出来事ではありませんでしたが、その体験が私に「本当の医療の姿」を教えてくれました。

医療とは、いのちといのちの対話です。統合医療も最先端医療も、すべてはその対話を支える道具にすぎません。最も大切なのは、患者さんと医師が心を通わせ、〝生きる力〟を信じ合うことだといまさらながら思います。

―治すから、寄り添うへ―

この言葉を胸に、私はこれからも医療の現場に立ち続けたいと思います。今、生かされていることに、みなさんに日々感謝しています。