古田理事長の記事が「統合医療でがんに克つ」1月号に掲載されました。
今回の執筆テーマは「がん治療におけるイベルメクチンの使い方」です。
以下に、ご紹介します。
イベルメクチンはなぜ「がん治療」にも応用できるのか
みなさん、イベルメクチンという薬をご存じでしょうか。以前に本誌でも説明しましたが、もう少し掘り下げてみたいと思います。
イベルメクチンとは
イベルメクチンとは、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学の大村智 先生が開発に貢献された薬剤で、もともとは家畜やペットの回虫、寄生虫の治療薬です。今から約40年前の1981年に開発されました。ヒトに対してはアフリカ、中南米の河川で発生していた失明に至るオンコセルカ症や、脚のリンパ腺でフィラリアが増殖し象皮様を呈する象皮病の治療薬として注目を浴びました。現在のところ日本での保険適応は、疥癬と腸管糞線虫症です。
イベルメクチンの薬理作用
腸管糞線虫症は糞線虫による感染症で、腹痛、吐き気などの消化器症状、移行する幼虫に対するアレルギー反応により蕁麻疹などの皮膚症状があらわれる場合があります。重度の感染においては粘膜からの出血や咳、喘鳴などの肺症状などを引き起こす場合もあります。疥癬は皮膚にダニの一種であるヒゼンダニが寄生しておこる感染症で、皮膚に激しい痒みなどがあらわれることがあります。
イベルメクチンは無脊椎動物の神経・筋細胞におけるシグナル伝達物質である塩化物イオンの通り道であるチャネルに結合します。これにより神経又は筋細胞の過分極がおこって寄生虫が麻痺をおこし死に至るとされています。
ところが近年、このイベルメクチンに 「抗がん作用」 があることが、国内外の研究で次々と報告されるようになりました。なぜ寄生虫の薬が「がん」に効くのか。安全性はどうなのか。本当に臨床に応用できるのでしょうか。
なぜ寄生虫の薬が「がん治療」に応用されるのか?
不思議に思われるかもしれませんが、医学の世界では「別の疾患に使われている薬が、がんに効果を示す」という例は珍しくありません。例としては、糖尿病薬のメトホルミンに抗がん作用があること、駆虫薬メベンダゾールに抗腫瘍効果があるなどがあります。
こうした再目的化(ドラッグリポジショニング)は、新薬よりも安全性データが豊富なため、医療現場の大きなメリットになります。
イベルメクチンもまさにその1つで、
・がん細胞の増殖を止める
・がん細胞だけをアポトーシス(細胞死)に導く
・血管新生を抑え、がんの栄養補給を妨げる
・がんのエネルギー代謝を狂わせる
・免疫チェックポイントを調整する
など、動物実験ですが複数の経路で抗がん作用が多くあることが確認されています。
しかし、残念ながらどのがんに対しても効果があるものではありません。個人差に加え、がん疾患の違い、投与量なども変わってきますので、投与(内服)を受けるときには、医師と相談したほうがいいと思います。
イベルメクチンの「抗がん作用」5つの主要メカニズム
ここでは医学論文に基づき、少し専門的ですがイベルメクチンをやさしく説明します。
① Wnt/β-catenin(ベータカテニン)シグナルを抑制する
多くのがんは、細胞の増殖を司る Wnt/β-catenin経路というものが異常に活性化しています。イベルメクチンは、この経路を特異的に抑制することが確認されており、がん細胞の増殖スピードを低下させます。
② がん細胞のミトコンドリアを障害し、エネルギーを断つ作用
イベルメクチンはがん細胞のミトコンドリアに作用して、ATP産生の低下、酸化ストレスの増大、細胞死(アポトーシス)誘導といった抗腫瘍作用を示すことが報告されています。がん細胞は通常より大量のエネルギーを必要とするため、ミトコンドリア障害は非常に効果的だと思います。
③ がん免疫を回復する:P-glycoprotein(P-gp)阻害、Treg抑制などの作用
イベルメクチンには意外にも免疫調整作用があるとされています。特に、Treg(制御性T細胞)を抑制して免疫のブレーキを外す作用があります。P-gpは、がん細胞が抗がん剤を細胞外に排出するポンプ機能を持つタンパク質で、薬剤耐性の主な原因となります。このタンパク質が過剰に発現すると、抗がん剤の効果が低下し、がん治療を妨げることがあります。そのため、P-gpの機能を阻害する薬剤も研究されています。さらに、腫瘍微小環境の改善する作用といった作用により、がん細胞の「免疫逃避」を抑えるとされています。
④ 腫瘍血管の新生を抑制し、がん細胞を兵糧攻めにする
がんが大きくなるには血管から栄養を奪わなければなりません。イベルメクチンは血管新生を抑制し、腫瘍の成長を遅らせる作用が報告されています。
⑤ がん幹細胞(Cancer Stem Cell)を抑える作用
がんの再発・転移に深く関わるがん幹細胞に対しても、イベルメクチンは増殖抑制効果を示すと報告されています。
実際の臨床報告:人でどのくらい効果があるのか?
研究はまだ初期段階ですが、いくつかの症例報告や小規模研究があります。進行がん患者さんに対して腫瘍縮小症例の報告があります。また、肺がん、乳がん、前立腺がんなどで、イベルメクチンの投与後に腫瘍マーカーの低下、画像上の腫瘍縮小が症例報告されています。
標準治療と併用してQOLが改善した例もあります。抗がん剤治療の副作用軽減や、倦怠感の改善などの報告も散見されます。これは免疫調整作用や抗炎症作用によるものと考えられます。『イベルメクチン』という本には、多くの症例報告がのっています。
注意しないといけない点は、体重当たり1㎎以上の高用量使用例で効果がでることです。また、イベルメクチンは脂溶性なので食事と一緒か、食後のほうが吸収率がよくなるようです。
がん治療では寄生虫治療よりも「やや高用量」で使うケースが多く、副作用がないわけではありませんが、比較的安全であると思います。
安全性はどうか?
イベルメクチンの一番の強みは 「世界で最も安全な薬の1つ」と評価されているところです。40億回以上の投与実績があり、重篤な副作用は極めて少ないとされています。妊婦や高齢者でも比較的安全性が高いようですが、実際にはクリニックでは妊婦さんには使用していません。
イベルメクチンは肝臓で代謝され、その代謝物は約12日間かけてほぼすべてが糞中に排泄されて、尿中への排泄はほとんどないようです。
副作用は、高容量ですと下痢、腹痛、嘔吐、傾眠などがあるとされてます。個人差はありますが、十分注意しながらの内服が必要です。筆者自身も写真のイベルメクチンを1日に3錠(72㎎)を内服しています。副作用はないのですが、よく寝るようになり、毎日寝坊しそうです。夜には熟睡し、睡眠から覚醒したあとはすっきりしています。なにか元気になってきている感じがします。興奮とは違います。
なぜ〝安い薬〟なのに広まらないのか?
これは、患者さんからよく聞かれる質問です。イベルメクチンは比較的安価で、特許も切れています。つまり、大手製薬会社が新薬として大きな利益を得ることができません。そのため、大規模な臨床試験が組まれにくいという構造的な問題があるように思います。
しかし、臨床現場では徐々に「選択肢の1つ」として認識されてくるのではと思います。
実際の使い方
実際のがん治療では、イベルメクチンは体重当たり1・0~2・0mg/kgと高容量を使用します。文献や論文では、「週1回、数日連続、隔日など、がんの種類・進行度・体力に合わせて調整」といった方法で使用されています。単独で内服するより、効能で示したように抗がん剤、免疫療法、高濃度ビタミンC点滴療法、栄養療法などと併用されるほうか、効果がでるのでは思っています。
イベルメクチンの使用、効果については、医療者側でも賛否両論だと思います。筆者自身はとても期待しています。これから経験を重ねて検討したいと思っています。
がん治療で大切なのは「多角的に攻めること」
繰り返しになりますが、イベルメクチンはあくまで〝治療選択肢の1つ〟です。がん治療で最も重要なことは、標準治療、栄養・代謝改善、免疫強化、精神的ケア、補完医療(オゾン療法、高濃度ビタミンC点滴、水素吸入など)といった多角的なアプローチを患者さんに合わせて最適化することだとおもっています。
まとめ ~筆者が大切にしていること
イベルメクチンががんに効く理由は、がんの増殖スイッチを止める、がん細胞のミトコンドリアを障害しエネルギーを断つ、がん細胞の免疫のブレーキを外す、血管新生を抑え、がんを兵糧攻めにする、再発の根源であるがん幹細胞を抑える、という多面的な作用があるからです。しかし、必ず効果がでると保証されたものではありません。ただ、安全性が高く、副作用がほとんどないということは、がん治療においてQOLを維持できるという大きなメリットがあります。一度は、ためしてみてもよいのではと考えています。がん治療は「1つの薬で治す」ほど甘いものではないと思います。
前号の特集にも寄稿しましたが、筆者は2024年に上咽頭がんステージⅢを患って、放射線化学療法を施行していただきました。その後からイベルメクチンを内服していますが、再発、転移はいまのところありません。
イベルメクチンに関するご相談は、「ふるたクリニック」「メディカルブランチ表参道」のホームページのお問い合わせフォームでお受けします。関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。
※掲載誌面は下記リンクよりご覧いただけます。(PDF)
