古田理事長の記事が「統合医療でがんに克つ」8月号に掲載されました。
下記リンクよりご覧いただけます。(PDF)
以下、全文となります。
連載第37回
統合医療はあきらめない
〜患者さん本位の医療とは〜
川崎市百合ヶ丘で「みなさまに本当に役立つクリニック」をモットーとしたふるたクリニックの理事長をしています。今回は、温熱療法と5-アミノレブリン酸についてお話しします。
🔸 温熱療法法について
現在行われているがんの温熱療法(ハイパーサーミア療法)は、昭和59年に厚生省の認可を受けて保険適用になりました。
以来40年近く経ちましたが、依然としてがん治療の現場では広く用いられているとは言えません。
がん細胞は正常細胞に比べて熱に弱いという特徴があり、熱による選択的治療が可能です。
しかし、体の深部にがんがある場合、熱が十分に届かず、治療効果が不十分になることがあります。
2000年に日本で開発された論文では、**マイクロ波を使用する温熱療法装置(ステラメディック社製LAN-01)**が紹介されています。
これを用いると、がん組織を選択的に加温できるため、治療効果が高いと報告されています。
温熱療法の効果を高めるために、点滴や内服などの併用療法も行われています。
筆者のクリニックでも、マイクロ波を使用したマイクロ波温熱療法を導入しています。
🔸 温熱療法と5-アミノレブリン酸について
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は、体内でエネルギー産生に関わる重要な物質であり、細胞内のミトコンドリアでATP(エネルギー)を生み出す過程に関与しています。
がん細胞はエネルギー代謝が異常で、ATP産生が低下しているため、5-ALAを補うことで細胞の代謝を活性化させる効果が期待されています。
🔸 温熱療法の展望
筆者は、がん治療において**「あきらめない医療」**を信念としています。
たとえ進行がんであっても、統合的に治療を行うことでQOLの改善や延命が可能と考えています。
温熱療法と5-ALAの併用は、その有力な選択肢の一つです。
(図1:マイクロ波がん治療装置(LAN-01)の模式図)
5-アミノレブリン酸とは
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は自然界に広く存在するアミノ酸の一種です。
生体内では、エネルギー代謝に不可欠な物質であるヘムやビタミンB12の前駆体として知られています。
その生理機能の解明が進み、現在では医療・農業・化粧品など幅広い分野で応用が進められています。
5-アミノレブリン酸におけるがん治療への応用
がん治療においては、5-ALAを投与することでがん細胞内に**プロトポルフィリンIX(PPIX)**が蓄積します。
このPPIXは光に反応し、光線力学療法(PDT)でがん細胞を選択的に破壊することが可能です。
図2:5-アミノレブリン酸の構造式および生理的機能(Sci–bio.comより引用)
5-アミノレブリン酸による線維芽細胞のがん細胞死誘導作用
2015年のサイエンス誌発表論文では、5-ALAの添加によりがん細胞の増殖が抑制されることが報告されています。
また、酸化ストレスを誘導することで、がん細胞が選択的に死滅する現象が確認されています。
5-アミノレブリン酸の細胞選択的作用
PPIXはがん細胞に蓄積しやすく、光照射により**活性酸素種(ROS)**を生成します。
このROSが細胞膜やDNAを損傷させ、がん細胞を死滅させます。
一方、正常細胞ではPPIXの蓄積が少なく、影響を受けにくいという選択的な作用を示します。
5-アミノレブリン酸の併用による効果
温熱療法や放射線療法、抗がん剤治療と組み合わせることで、PPIX生成が促進され治療効果が高まることが分かっています。
さらに、がん細胞のエネルギー代謝を正常化させることで、副作用を軽減する効果も期待されています。
アミノレブリン酸を活用した臨床応用
近年では、ALSやパーキンソン病などの神経変性疾患に対しても、5-ALAの応用が検討されています。
また、加齢によるミトコンドリア機能低下を防ぐ目的でも研究が進められています。
日本では5-ALAを利用したサプリメントや医薬品が開発され、臨床応用が進んでいます。
特に、がんや糖尿病、高血圧など生活習慣病への効果も報告されています。
まとめ
5-アミノレブリン酸は、細胞のエネルギー代謝を改善し、ミトコンドリア機能を高めることで、がん治療や慢性疾患治療において重要な役割を果たすと考えられます。
今後も、臨床研究の積み重ねが期待されます。
著者紹介
古田一徳(ふるた・かずのり)
1966年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業後、ドイツ・ベルリンフンボルト大学に留学。
川崎市「ふるたクリニック」院長。統合医療や温熱療法、5-ALAの臨床応用を推進している。
